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熊本地方裁判所玉名支部 平成9年(ワ)84号 判決 1998年9月29日

呼称

原告

氏名又は名称

松村賢一

住所又は居所

熊本県玉名市滑石四〇二〇番地の一

代理人弁護士

松本津紀雄

呼称

被告

氏名又は名称

角口勝

住所又は居所

熊本県玉名郡岱明町鍋一一二九番地二

呼称

被告

氏名又は名称

大生鉄工所こと

大曲幹生

住所又は居所

福岡県柳川市大字田脇字二郎丸九七〇―一

代理人弁護士

永野周志

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告大曲幹生は、別紙物件目録記載の自動採貝装置を製造、販売してはならない。

2  被告角口勝は、別紙物件目録記載の自動採貝装置を販売、使用してはならない。

3  被告らは、原告に対し、連帯して金六五〇万円を支払え。

4  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

5  1項ないし3項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙実用新案目録記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」という)の実用新案権者である。

2(一)  本件実用新案権の技術的範囲は、次のとおりである。

キャタピラ車の上面に機枠を構成し機枠の支柱から前方へ選別用のたて線器を下り傾斜に装設し、その先端には刃板を付設し、さらに支柱の上端からたて線器と同方向へチエンコンベヤーを装設し、チエンコンベヤーには羽根板を横断方向に取付け、各羽根の先端はたて線器の表面に接摺りするようになし、チエンコンベヤーの先端位置に羽根車を連設し、チエンコンベヤーとたて線器とを油圧シリンダーによって角度調節自在となし、たて線器の上端下面位置の支柱から後方へたて線器を下り傾斜に装設し、前記たて線器の下端下方位置にシュートを連設させ、前方のたて線器の下面位置に土砂類の滑落板を取り付け、チエンコンベヤーと羽根車とをチエンなどの無端帯を掛けさせ、後部のたて線器の上端側の軸端にチエンコンベヤーの軸端からクランク機構を連結させ、機枠の周側位置に作業台を設けたことを特徴とする自動採貝装置。

(二)  本件実用新案権の技術的範囲を構成要件に分節すると次のとおりである。

(1) キャタピラ車の上面に機枠を構成し機枠の支柱から前方へ選別用のたて線器を下り傾斜に装設し

(2) その先端には刃板を付設し、

(3) さらに支柱の上端からたて線器と同方向へチエンコンベヤーを装設し、

(4) チエンコンベヤーには羽根板を横断方向に取付け、

(5) 各羽根の先端はたて線器の表面に接摺りするようになし、

(6) チエンコンベヤーの先端位置に羽根車を連設し

(7) チエンコンベヤーとたて線器とを油圧シリンダーによって角度調節自在となし、

(8) たて線器の上端下面位置の支柱から後方へたて線器を下り傾斜に装設し、

(9) 前記たて線器の下端下方位置にシュートを連設させ、

(10) 前方のたて線器の下面位置に土砂類の滑落板を取り付け、

(11) チエンコンベヤーと羽根車とをチエンなどの無端帯を掛けさせ、

(12) 後部のたて線器の上端側の軸端にチエンコンベヤー軸端からクランク機構を連結させ、

(13) 機枠の周側位置に作業台を設けたことを特徴とする

(14) 自動採貝装置。

3  被告両名は共謀のうえ、別紙物件目録記載の装置(以下「被告製品」という)を被告大曲においてこれを製造・販売し、被告角口においてこれを販売・使用している。

4  被告製品の使用は、本件実用新案権を実施するものである。すなわち、構成要件(1)ないし(5)、(7)ないし(10)、(12)、(13)は別紙物件目録中の図面のそれぞれ▲1▼ないし▲5▼、▲7▼ないし▲10▼、▲12▼、▲13▼にそれぞれ該当する。

被告製品には構成要件(6)、(11)記載の羽根車が装着されていないが、羽根車は、砂面の堅さ、柔らかさに対応して採貝装置が円滑に作動するためのものであり、これが欠けても、採貝装置自体の機能には影響がないものである。したがって、被告製品にこれが欠けているからといって、構成要件の同一性には変わりはない。

5  被告らは、少なくとも過失によって本件実用新案権を侵害するものであり、原告は右侵害行為により次の損害を被った。

原告は、土本英親らに対し、自動採貝装置五台を売却する予定であったのに、同人らは被告角口からこれを購入し、このため、原告は一台当たり一三〇万円合計六五〇万円の得るべき利益を失った。

6  よって、原告は、本件実用新案権に基づき、被告大曲に対し被告製品の製造、販売の差止、被告角口に対し被告製品の販売、使用の差止並びに被告両名に対し共同不法行為に基づく損害金六五〇万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2(一)の事実は認める。

3  請求原因3の事実は否認する。被告らが製造販売している製品は原告主張の被告製品と異なる。

4  請求原因2(二)及び4の主張は、被告製品が本件実用新案権の技術的範囲に属していないことを自認するものであるから、主張自体失当であり、原告の主張自体から本件実用新案権の侵害が成立しないことが明らかである。

5  請求原因5の事実については否認または争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2(一)の各事実については当事者間に争いがない。右争いのない2(一)の事実及び証拠(甲三)を総合すると請求原因2(二)の事実を認めることができる。

二  請求原因4の事実について判断するに、原告がその差止の対象としている対象製品が実用新案権の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて実用新案権の技術的範囲を確定しなければならず(実用新案法二六条、特許法七〇条一、実用新案登録請求の範囲に記載された構成中に対象製品と異なる部分が存する場合には、右対象製品は当該実用新案権の技術的範囲ということができない。

原告は、請求原因4において被告製品が実用新案登録請求の範囲の記載に基づく前記構成要件(6)(11)を充足していないことを自認しており、これは被告製品が本件実用新案権の技術的範囲に属していないことを自認するものに他ならず、原告の主張自体から本件実用新案権の侵害が成立しないことが明らかである。

三  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 樋口英明)

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